記念館だより

『千羽鶴』上映と南美川洋子さんをゲストに映画談話室を開催しました

2018.06.08

紫陽花が咲き始めた快晴の6月初旬、企画展「大映映画のスターたち」では、鎌倉ゆかりの文学者・川端康成原作の映画『千羽鶴』の上映がありました。そして、6月2日は本作に稲村ゆき子役で出演された南美川洋子さんにお越しいただき、上映後に映画談話室を開催しました。南美川さんは1967年から70年にかけて大映専属の清純派女優としてご活躍されています。

映画『千羽鶴』は大映を代表するスター・市川雷蔵さんが自ら企画し、主演を予定していた作品でしたが、公開した1969年に37歳の若さで逝去されました。雷蔵さんが演じるはずであった菊治の役は平幹二朗さんが務められています。南美川さんは映画デビューから2年目、雷蔵さんと一緒に「衣裳合わせ」をした際の思い出をお話しいただきました。映画談話室の前に会場で本作を鑑賞された南美川さんは、ご自身の思いから、今回は菊治の役を雷蔵さんに置き換えてご覧になられたとのことでした。透き通るような美しさを持った雷蔵さんの姿は今も目に焼きついているとのことでした。

映画は原作同様、冒頭の鎌倉・円覚寺の場面が大変印象的です。円覚寺での撮影には川端康成さんが立ち会われていたということで、南美川さんは緊張のあまり千羽鶴の風呂敷を持ったまま腕が固まってしまったというエピソードもお話しいただきました。南美川さんの気さくな人柄が伝わるお話の数々に会場からは笑いも起こるなど終始和やかな雰囲気に包まれていました。

昨年、東京にある名画座・ラピュタ阿佐ヶ谷で南美川洋子さんの特集上映が開催され、10作品の上映とトークショーが行なわれました。当日は、ラピュタ阿佐ヶ谷のスタッフの皆様から素敵なお花が届けられ、会場を華やかに彩りました。連日、特集上映に通われたファンの方々にもお越しいただき、南美川さんの楽しいトークで映画談話室は大盛況のうちに幕を閉じました。南美川さん、どうもありがとうございました。(文)

春のやわらかな風のように−女優・山本富士子さんのトークイベント報告−

2018.05.18

現在開催中の企画展「大映映画のスターたち」の関連イベントとして、4月10日(火)に、日本映画が誇る大女優であり、テレビや舞台でもご活躍された山本富士子さんをお迎えし、トークイベントを開催しました。

当館ではこれまでにも、多くのスターの方々をゲストにお迎えしてきましたが、山本富士子さんのトークイベントも広報が出たタイミング、またチケット発売日近くには多くのお問合せをいただきました。皆様お電話口で富士子さんの美しさについて、またお母様が富士子さんを大好きだったという思い出などをお話しくださるので、改めて女優・山本富士子の影響力の大きさを実感しました。チケットの発売日には、東京の方から開館前に駆けつけてくださる方もいて、イベント当日に向けて、当館の中もいつになくそわそわしていました。

当日富士子さんは、白いお召し物の中に花柄を取り入れた春らしい服装でお越しになり、代表作の一つである『夜の河』の上映後、同作の思い出や日頃大切にされている言葉についてお話しいただきました。

昔の映画を観ていると、台詞を発する俳優さんたちの口から白い息が出ていて、さぞ寒い中で撮影しているのだろうと思うことがありますが、やはり冷暖房のないスタジオでは、どんなに綺麗な女優さんでも心身共に健康でないと長く続けられなかったようで、個人的には「スタジオの床は土」だったということを初めて知りました。その一言だけで、暑い夏には埃が舞い、寒い冬にはしんしんとした冷たさに覆われる撮影所の様子がありありと想像でき、富士子さんのお話で一気にリアリティをもって思い浮かべられる気がしました。

入社1年目から10本もの映画に出演され、無我夢中で走っていた富士子さんが3年目に出会った作品が『夜の河』でした。名匠・吉村公三郎監督をはじめ、撮影の宮川一夫さん、脚本の田中澄江さんなど、映画界の錚々たる面々が集結した本作は、富士子さんにとってやはり特別な経験だったようです。富士子さんは脚本を読んだ時から、主人公の舟木きわという女性に大変惹きつけられていたと仰っていましたが、確かに当時ではまだ珍しく手に職を持ち、凜として勝気な自立した女性が妻子ある男性と出会い、苦悩しながらも惹かれていく姿は、現在から見てもまったく色褪せない、同じ女性から見てもとても魅力的な物語です。

吉村監督は、富士子さん演じるきわのイメージをあらかじめ完璧にイメージしていたようで、衣裳合わせもなく、髪形も「ひっつめるように」という指示が早々とあったそうです。恐らくこんなことは非常に珍しいと思われますが、なんだかとても頼もしく感じますよね。また、上野芳生さんによるデザインの着物も、京都に溶け込む自然さや成熟した女性ぶり、染色デザイナーという役柄に合った斬新さをすべて併せ持っていて素晴らしかったということなので、次に映画を観る時は是非注目したいところです。

色盲だったことで知られる吉村公三郎監督にとって初のカラー作品となった本作は、随所に色彩へのこだわりがあったそう。富士子さんのお話でも、それまで赤い色が嫌いだったきわが上原謙さん演じる竹村との出会いの後で赤い色を染めたり、竹村の妻の死を知ったときに黒い喪服を染めているなど、きわの心理と結びついた色の表現が多用されていることや、きわと竹村が汽車の中で言葉を交わす場面の撮影がいかに大変だったかが語られましたが、それらが宮川一夫さんの手で非常に効果的な映像に昇華されており、日本映画が誇る技術力の高さが伺われました。映画作りが数多くのプロフェッショナル達による集団の力で成り立っていることを再確認しました。

私は映画の『夜の河』しか知りませんでしたが、富士子さんはテレビドラマや舞台でもこの作品を演じられたということで、富士子さんの女優人生とともにあった作品なのだということを強く感じたお話でした。

 

トークの後半では、富士子さんが日常生活の中で大切にしている「言葉の力」のお話もしてくださいました。

富士子さんは、心の琴線に触れるような言葉やお話に出会うと必ずノートに書き留めていらっしゃるそうですが、今回は小さな紙に書き写してお財布に入れて持ち歩いているという2つの詩を朗読してくださいました。

せっかくなのでこちらに紹介させていただきますね。

サムエル・ウルマン「青春の詩」(抜粋)
青春とは、人生の或る期間をいうのではなく
心の持ちかたをいう
年を重ねるだけで 人は老いない
理想を失うとき はじめて老いる 
(繰り返す)
青春とは、人生の或る期間をいうのではなく
心の持ちかたをいう
年を重ねるだけで 人は老いない
理想を失うとき はじめて老いる

「砂時計の詩」
1トンの砂が、1年の時を刻む砂時計があるそうです。
その砂が、音もなく巨大な容器に積もっていくさまを見ていると
時は過ぎ去るものではなく
心のうちに 体のうちに 積りゆくもの
と、いうことを、実感させられるそうです。
(くり返す)
時は過ぎ去るものではなく
心のうちに 体のうちに積りゆくもの

サムエル・ウルマンの「青春の詩」は、「理想を失うときはじめて老いる」の「理想」という言葉を、夢や希望、好奇心、挑戦といった言葉に置き換えて、いつまでも瑞々しい青春の心を失わないようにと心に留めているそうです。

また「砂時計の詩」は、富士子さんのご主人、作曲家の山本丈晴さんが、産経新聞の読者投稿の欄「朝の詩」で見つけて大変感銘を受け、誕生日に贈ってくれたのだそう。一般的に「時は過ぎ去るもの」という認識がありますが、「時は積もっていくもの」と考えると、日々の一瞬一瞬や毎日の積み重ねを大事にできるような気がします。島根県には1トンもの砂で作られた1年の時を刻む砂時計があるらしく、その設立主旨に書かれた「時間を可視化する」ことを富士子さんは日々実践されているのだなぁと感じました。

参加されたお客様にとって「言葉の力」のお話は恐らく思いがけないものだったと思います。でもだからこそ、これまで知らなかった素敵な言葉を富士子さんの口から教えていただくことができて、その喜びや印象の度合いはとても大きかったのではないでしょうか。

私自身、まだそこまで時の流れを実感できる境地には達していませんが、「時は積もる」ものだという考え方を、これからの人生の中で大切にしたいなと思えた、そんな素敵なトークイベントでした。

山本富士子さん、本当にありがとうございました。(胡桃)

「はじめてのシナリオ」教室を開催しました

2018.04.05

「シナリオ」って聞いたことがあるけど、どんなもの?とか、「シナリオ」を書き始めてみたはいいけれど、うまく書くにはどうしたらいいのかな?とか、身近に接する「シナリオ」という言葉も、いざ書こうとするとなかなか難しいものです。当館では、これまで皆様にシナリオに接する機会をとシナリオ教室を開催してきました。今年も講師に、テレビプロデューサーとして、「俺たちの旅」や「太陽にほえろ!」「あぶない刑事」など、多くの名作を世に送り出した岡田晋吉先生にお越しいただきました。

3日間かけて、シナリオの書き方の講義と参加者の皆様による提出シナリオの講評という内容で、シナリオを学んでいただきました。岡田先生の貴重な体験談からは、シナリオの様々な秘訣を聞くことができました。その一つ、新聞記事の投書欄は、シナリオになるエピソードの宝庫ということでした。シナリオ創作の土台は、現実に起こったことや、日常の体験談であり、限りない人間への興味へと繋がっているんですね。今年のシナリオ教室も、楽しく分かりやすくシナリオについて教えていただきました。岡田先生、ありがとうございました!(文)

日本映画の新しいカタチ2018

2018.04.01

3月23日(金)から25日(日)まで、鎌倉市川喜多映画記念館では「日本映画の新しいカタチ」の上映とトークイベントをおこないました。本特集では、新進気鋭の若き映像作家の作品を毎年取り上げ、紹介しています。また監督や俳優、関係者の方に鎌倉までお越しいただき、上映後のアフタートークを開催しています。

今回のテーマは《自分を映す鏡》です。PFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワード2015でグランプリを受賞し、第66回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に史上最年少(当時21歳)監督作として正式出品された『あるみち』、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014で監督賞&SKIPシティアワード賞に輝き、ドイツのフランクフルトで開催されているニッポン・コネクションではニッポン・ビジョン審査員賞(第14回)を受賞した『螺旋銀河』、PFFアワード2017で審査員特別賞を獲得し、第20回京都国際学生映画祭でグランプリ&観客賞を受賞した『沈没家族』と、選りすぐりの3作品を上映しました。

左:杉本大地監督

テーマに沿った作品というよりも、それぞれに形式・手法も違えば、対象へのアプローチもタッチも全く異なる3つの映画で、別々の観点から作品の魅力や面白さを語ることができるもの、というのが最初の印象でした。その中でみえてくる特徴や共通点からテーマをまとめた、というのが今回の経緯です。連日にわたって観に来てくださった方もいれば、1日に3作品ともご覧になった方もいらっしゃいました。ひと粒でも十分に面白いのですが、3作品を鑑賞していただくと、映画の面白さは実に多様な観点から見出すことができるし、色とりどりのカタチをしているのだな~と思っていただけたのではないでしょうか。

左:草野なつか監督

23日は『あるみち』の杉本大地監督、24日は『螺旋銀河』の草野なつか監督、25日は『沈没家族』の加納土監督と、ライターでPFFアワードのセレクション・メンバーでもある木村奈緒さんにご登壇いただきました。

加納土監督、木村奈緒さん

『沈没家族』は、かつて監督が家族3人で暮らしていた鎌倉の家の近くや海辺、江ノ電沿いや鶴岡八幡宮を母子で訪ねるシーンが映し出されます。鎌倉にお住まいの方には見覚えのある風景もちらほら・・・。上映後のアフタートークでは、鎌倉在住の方から、鎌倉での子育て環境の当時と現在の違いについてのお話もありました。加納土監督も自身の出生地である鎌倉での上映会を大変喜んでくださいました。

どんな作家にとっても処女作はとても大切なもので、その瑞々しさや輝きはそれぞれに違ったカタチで表出するものです。今回も作品の上映とともに、彼らのこめた想いのひとつひとつを、当時を振り返りながら伝えていただくことができ、とても良い場になりました。ご登壇いただいた方々、この場に立ち会い上映を楽しんでくださった皆様、どうもありがとうございました。(B.B.)