泉鏡花のお誕生日Week!!

19/11/09

11月4日は泉鏡花の誕生日です。そのため当館では1週間にわたって、鏡花原作の映画化『婦系図 湯島の白梅』(1955年、衣笠貞之助)の上映に始まり、11月2日には鏡花物映画の代表作『瀧の白糸』(1933年、溝口健二)の活弁上映、4日には鎌倉を舞台にした鏡花作品「星あかり」の朗読イベントなど、鏡花にちなんだイベントを実施しました。

『瀧の白糸』は入江たか子と岡田時彦という、当代きっての美男美女コンビによって演じられた無声映画です。モダンな女優として広く知られていた入江は、本作で侠気ある女太夫を演じて世間の喝采を浴び、また溝口健二による明治の雰囲気が色濃く再現された画面作りも高く評価されました。

弁士を務めてくださったのは、おなじみ澤登翠さんです。日本の伝統話芸である活弁文化の継承者として活躍される澤登さんは、弁士を志すきっかけとなったのがまさに『瀧の白糸』であり、泉鏡花に対する思い入れも非常に深く、今回のオファーを大変喜んでお引き受けくださいました。上映後のトークでは、鏡花の原作「義血俠血」から重要な部分を引用しながら、原作と映画の魅力についてもたっぷりと語っていただきました。

 

『瀧の白糸』は長い間不完全な状態のプリントが複数存在しており、結末部分も重要な箇所がばっさり切られた状態のものが出回っていましたが、東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)がそれらを比較したうえで足りない部分を補った《最長版》を作成したことで、現在では、元の状態にできるだけ近い形での上映が可能になりました。今回はその《最長版》を上映することができ、泉鏡花先生にも喜んでいただけたのではないかと思います。

鏡花の誕生日当日には、12月1日まで「清方と鏡花~二人で紡ぐ物語の世界~」を開催している鏑木清方記念美術館との連携企画として、鎌倉を舞台にした鏡花の「星あかり」の朗読イベントを実施しました。

朗読を務めてくださったのは、俳優・奈佐健臣(なさ けんじ)さんです。奈佐さんは、俳優やナレーターとして映画や舞台、テレビで活躍される一方で、「ロウドクシャ」という、新しい形態での朗読プロジェクトを通して、文学に新たな光を当てる活動をされています。音楽や空間的な演出を使ったイベントも多数行われていますが、今回は記念館裏の庭園内に建つ江戸時代の古民家・旧川喜多邸別邸(旧和辻邸)内での、朗読一本勝負。

一般的な朗読のイメージと違って、奈佐さんは文章をすべて身体に入れて(記憶して)語られるので、場が引き締まり、観客側も感覚を研ぎ澄まされていきます。これまで別邸では様々なイベントを行ってきましたが、奈佐さんの朗読は、主催者側としても自画自賛したくなるほど、別邸の雰囲気ともぴたりと合っていて、素晴らしい時間となりました。

 

朗読終了後には、鏑木清方記念美術館の今西学芸員による、鏡花と鎌倉をめぐる詳細な解説(尾崎紅葉門下になる前、将来への不安と現実的にお金のない状態で、鏡花が不安定な時期を送っていたことがよくわかり、そんな状態だからこそ「星あかり」の世界観が生まれたのだと納得がいきました)、そしていよいよ「星あかり」の舞台となった材木座・妙長寺への散策に出発です。

妙長寺では、住職の方に法要の予定がなければご説明していただけるということで、当日まで確定していなかったのですが、ご住職は鏡花と妙長寺の関係を記したプリントまでご用意してくださり、本堂の中でお話を伺うというご光栄にもあずかりました。物語の舞台となり、鏡花が実際に過ごしたまさにその場所を訪れることで、物語と鏡花に対する想像力を豊かに膨らませることができた時間となりました。

妙長寺へは記念館から歩いて30分ほどかかり、参加者の皆様にはたくさん歩いていただくことになりましたが、天気にも恵まれ、朗読~解説~散策と有意義な催しとなりました。(胡桃)